公共交通の運賃制度

 

 

公共交通の運賃制度には様々なものがあります。

お金の払い方でも、事前に徴収するもの、車内で清算するもの、下車時に徴収するもの、チケットもプリペイドカード方式や近年普及が進むICカードシステム、金額金券、回数券、定期券など様々です。海外まで視野を広げればそのバリエーションはたいへん広いものです。

 

これだけ様々なバリエーションがあるだけに、一見さんにはわかりにくかったり、不安を感じたり、また住んでいる人にとっても理解できないようなものも珍しくはありません。また、複数の交通機関を乗り継ぐような場合にはわずかな移動距離でも高い運賃を払わなくてはならなかったり、バス・鉄道用に様々な交通カードを保持しなくてはならないなど不都合も多く、公共交通利用の障壁になっている場合もあります。

 

都市交通を使いやすくするソフト面の施策としてまずは運賃制度を考えて見ましょう。

 

 

 

1 運賃体系を考えてみる

運賃制度の基礎となるものは「運賃体系」です。

運賃体系とは、運賃計算の手法で、距離や地域環境などにより様々なものがあります。

運賃体系 概  要
対距離制

距離あたりの賃率と距離を掛け合わせて料金を算定。これに基礎運賃額を加算する場合もあります。

金額端数は多くの場合、四捨五入、五捨六入、24舎25入等で調整します。

対距離区間制 短距離と同様だが、距離を区間帯(たとえば10〜15kmなど)単位で料金を設定
上限対距離制 対距離制であるが上限金額が決まっているもの
均一制 料金が一律
部分均一制 一定エリア内(もしくは一定額)は均一、それ以外は対距離となる料金設定
ゾーン制 エリア(ゾーン)均一料金とゾーンまたぎ料金の組み合わせで料金を設定。乗り換えは何度でも可能で時間制限を設定するのが一般的。
ゾーン区間制 ゾーン制を基礎に、距離区間帯を設定する。

それぞれには特性があり、また問題もあります。

たとえば、均一制やゾーン制の場合には短距離では割高、長距離では割安になる、ゾーン制ではゾーン境界を越えると距離に関係なく割高になるなどの問題があります。また、対距離は料金区分が細かくなり煩雑になります。

ゾーン制の運賃区分の例(パース都市圏)

 

また、利用傾向との関係も多く見られます。

均一制の場合にはトリップ動向が複雑でもさほど煩雑な料金計算を要しないことで、運賃徴収システムなども様々なものが使えますが、料金が割高な場合には短距離が利用しにくくなります。

また、対距離の場合には初乗りの設定にもよりますが短距離利用が容易となりますが、料金徴収が煩雑になりがちです。

 

これらの運賃体系の得失を考え、一律的に導入するのではなく、各地域にあわせた料金とすることが必要です。

 

2 発券・運賃徴収方法のいろいろ

運賃徴収の手法には様々なものがあり、利用者数や施設の問題、地域の文化や国民性、住民心理的なものを反映させたバリエーションが非常に多くあります。挙げていくときりが無いほどです。

とはいえ、大きくは5つに分類され、そのほかはバリエーションと考えることが出来ます。

改札方式 券売機等で購入したチケットを地上改札機でチェック。 世界各国の鉄道や地下鉄などで一般的
車内改札清算方式 整理券を受け取り降車時の支払い、または乗車時に係員(乗務員)に現金支払い、または事前発券の改札がある。 日本、アジアの路面電車、世界各国のバスなどで採用
車内発券清算方式 乗車時に運転手から、もしくは乗車後に車内で係員・乗務員からチケットを発券購入する。 欧州・豪・シンガポール・タイ・中米のバスなどで採用
信用乗車方式 券売機等でチケットを購入。もしくは自分で改札する。係員等によるチェックは無い。 北米・欧州・豪などの軌道系交通で採用
交渉清算式 乗務員との交渉により料金を決めて清算する アジアの地方部やアフリカなど

 

 

以下に細かく見ていきましょう。

 

1)改札方式

鉄道で一般的な方式で券売機や窓口で購入したチケットをホームやコンコースの改札や自動改札機を通し、乗車する方式です。

チケットには様々なものがあり、プラスティックカード、磁気チケット、トークン(コイン)などがあります。

複雑な料金体系にも対応可能で不正行為などもやりにくいことから広く利用されています。

そのためネットワークが複雑になりやすい鉄道などで適用されますが、有人改札、または自動改札機が必要であるためコストがかかります。自動改札にはバーゲート式、ゲート式、ドア式などがあり、近年ではゲート式のものがほとんどです。

プラスチックチケット(香港MTR) 自動改札(ディズニーリゾートライン ゲートウェイ駅)

 

 

 

2)車内改札・清算方式

バスや地方のローカル鉄道では一般的な方式で、乗車時に支払い・改札を行う「前払い」と降車時に支払い・改札を行う「後払い」があります。

 
乗車口の整理券発行機と降車口の料金箱(岡山電軌MOMO)

とはいえ、そのシステムは実に多岐にわたります。

システム 適用事例(青字:海外)
鉄軌道 バス

前払い式

均一前払い式

乗車時に運賃を払う。

都電荒川線

東急世田谷線

東京23区

横浜・川崎地区

那覇市内

ニューヨーク他北米各地

ハワイ

ソウル

対距離申告前払い式

 

ゾーン制申告前払い式

乗車時に行き先(ゾーン)を申告して料金を支払う

東京多摩地区(一部)

千葉市内(一部)

バンコク(一部)

バンクーバー

エドモントン

対距離斬減前払い式

起点から終点に向かうにつれて運賃が下がっていく。乗車時に示された料金を支払う。

香港(路線バス)

シンガポール(一部)

後払い式

均一後払い式

降車時に運賃を払う

札幌市電

伊予鉄道市内線

阪堺電軌

土佐電鉄

香港港島電車

大阪市・神戸市・京都市・福岡市他均一区間

バハマ

 

対距離整理券後払い式

乗車時に整理券を受け取り、降車時に番号を対照して支払い

岡山電軌

広島電鉄

全国各地の地方ローカル線

全国各地

対距離申告後払い式

降車時に乗車地点を申告して支払い

タヒチ

タイ地方部(一部)

混在式

対距離混在払い式

ターミナルでの料金収受をなくしターミナル行き(上り)は先払い、ターミナル発(下り)は後払いにする。ターミナル行きで料金変動させればいいので単純

船橋市(一部)

奈良市(一部)

千葉市(一部)

区間別混在払い式 区間を2つの均一区間に分け、前払いの区間と後払い区間とする。どちら区間のみならどちらかの料金のみ、両方にまたがる場合は両方の料金を払う 野沢温泉ゴンドラ 台湾(台北)

表を見て不思議に思われた方も多いでしょう。海外の鉄軌道では改札方式か信用乗車方式、もしくは発券方式であり、日本のように車両で直接金銭払いのみというケースはそうは多くありません。これは「トランジット(乗り換え)」が可能な「時間有効」であるということがあるためです。(詳しくは3)を参照)

均一前払い、あるいは後払いの場合でも乗継制度がある場合もあり、見た目は似ていますが厳密には違います。

また、整理券方式もあまり多いものではなく、日本ほど海外では普及していません。一般的に「乗客信用」を採用しないアジアの国々でも前払いが一般的です。

 

3)車内発券清算方式

国内では地方のローカル鉄道線で一部見られる程度ではありますが、海外ではバスや路面電車、フェリーなど多くの都市交通で一般的に使われている方式です。

この方式の場合、「ツーマン」(運転手と車掌または改札係が乗務する)が基本と思われがちですが、多くの国で運転手のみのワンマン扱いも見られます。よく調べてみると国内でも導入に無理は無いシステム。ゾーン運賃制度の信用乗車制度を裏で担保しているシステムともいえます。

 

システムとしては大きく分けて2種類で、一つは車掌からチケットを購入するタイプ。降車時にチケット回収がある場合と無い場合がありますが、地方ローカル線では通常乗車券扱いですが、ゾーン制を採用していない限りは1回限り有効のチケット方式です。

 

もう一つはバスなどにおいて乗車時に運転手からチケットを購入する方式です。ヨーロッパやオーストラリアなどで多いものですがLRTなどでは信用乗車、鉄道では改札方式あるいは信用乗車、バスの場合は車内発券となっている例が多いです。これらの地域はゾーン制であるとともに時間制でもあり、1ゾーンなら30分、2ゾーンなら45分といった時間制限が設定されています。鉄道やLRTの場合は改札通過もしくは発券時、バスは乗車時の時刻が打刻されたチケットになることもあえて発券をするポイントになります。

この方式をゾーン制度においてバスに関してのみ適用し、LRTの信用乗車と組み合わせることのメリットとしては常時利用者はチケットを携行しているため、検札による確実な捕捉が可能であること、バス乗車時に事実上の検札を行えるのでLRT利用者よりも多いバス利用者(日本の感覚では逆だが欧米では当然)を「スクリーン」としてチェックが出来るということがあります。

 

4)信用乗車方式

LRTといえば「信用乗車」と言われるほど日本のLRT導入論では外せないシステムです。

簡単に言えば「乗車券を各自が事前に購入し、自分で改札する」システムです。

 
チケットキャンセラー機(パース市) マルチライダー(回数券)(パース市) ゾーン制チケット(パース市)

 

実際には、1回券利用者はチケット購入時に有効時間が設定されるため、自分で改札するのは複数回乗車券(回数券)やデイパスの初回乗車時に限られます。

多くの都市では「ゾーン制」が同時に導入されています。ゾーン制の場合、時間制限が不可避であり(北米方式の場合は回数制限)、この時刻打刻が必須となるためある意味で信用乗車制度がゾーン制の必須と勘違いもされがちですが、信用乗車制度でありながら均一制の都市(アデレード)もあるほか、ゾーン制でも改札方式の都市(シドニー)もあります。

また捕捉率を高めるために主要ターミナルや乗換駅に改札を設けている例(エドモントンLRT、シドニー近郊電車)や車掌を乗務させ確実に検札を行っている例(香港LRT)もあり、方法次第でいろいろ考えられます。

 

この方式のメリットは改札が無いことによる乗降のスムーズ化、他連接車の導入などになります。罰金以外にもこのような方法で補足を高め、宗教的倫理観、所得の問題等から無理といわれるアジアや中南米でも導入がされています。今後の課題として検討に値するものといえましょう。

 

 

 

このように運賃制度には様々なものがあります。公共交通の利用促進や交通の利便性向上に直結するものだけに、地域の特性や文化などを踏まえて最も適したものを見出し導入することが大事です。

 

 


「交通を使いやすくしてみよう」INDEXに戻る ダイヤの工夫へ
TOP 都市交通 「都市交通のモード選択を考える