新しい都市交通システムを探る

レポート3 沖縄都市モノレール ゆいレール

 

 沖縄県における戦後初の軌道系交通機関として登場した「ゆいレール」。

 那覇市西端に位置する沖縄の玄関である那覇空港から一度南に進み、赤嶺で北東に進路を変え、返還地である再開発地区として急速に発展している小禄地区から奥武山公園、国場川を渡って真北に進み、業務集積が見られバスターミナルがある都心部の旭橋、久茂地川沿いに商業・業務拠点の久茂地(県庁前)・美栄橋を経て、繁華街国際通りに隣接する牧志・安里、新都心部として整備が進むおもろまち、そして古島で南東に進路を変えて市街北部の住宅地である首里を結ぶ延長12.9kmを結ぶ路線で、2003年8月に開業しました。

路線図(クリックすると拡大します。96kb)

計画区間 那覇市字鏡水(那覇空港)〜那覇市首里汀良町

延長

12.9km(営業キロ)

13.1km(建設キロ)

構造 跨座型モノレール
駅数 15駅
開業 2003年(平成15年)8月10日
最高速度 約60km/h
運転方式 ワンマン手動運転
ピーク時輸送人員計画 2,132人/時
計画利用者数 31,350人/日(開業時)

 「新たにモノレールができたぐらい何でもない」「何も目新しいシステムでもないだろ」という感想もありましょう。しかし、これまでまったく鉄道・軌道が存在しなかった都市圏に、新たに軌道システムが敷設されるという極めて稀有なものでもあります。

 これは世界的に見てもそうそう例があるものではなく、近年では同じくクルマ社会のタイ・バンコクのスカイトレイン(BTS)、マレーシア・クアラルンプールのLRT、アメリカ・ポートランドのMAX、サンディエゴのLRT等、都市交通環境にドラスティックな変化を生んだものが散見できる程度となっています。

 それだけに「ゆいレール開業」の都市に与える「インパクト」は大きいはずですが、今ひとつ注目されていない、あるいは注目されてもモノレールだからというだけでマイナス方向のバイアスがかかる。そんなゆいレールを実見する機会に3度にわたり恵まれたので、レポートしてみましょう。

 

青空の下走る「ゆいレール」(旭橋〜壺川間) 停車中のゆいレール(旭橋駅)

 

 

 

1 ゆいレールが与えたインパクト

 沖縄は軌道系が無い上に路線バス網も相当な路線網を有するもののきわめて弱く、1989年の調査によると那覇都市圏の交通機関分担率は自動車52.9%・バス8.2%(沖縄中南部都市圏パーソントリップ調査より)、沖縄県全体では自動車79.7%・バス4.8%(H11旅客地域流動調査)とこの規模の都市にしてはバスの分担率が高いものの自動車の分担率が非常に高い「クルマ依存社会」が形成されています。

 当然、これによる問題は多く、沖縄の玄関口那覇空港からわが国随一のリゾート地である西海岸恩納村まで混雑していなければ1時間半もあれば余裕で到着できるのに一度混雑に巻き込まれると3時間近くを要するほか、那覇空港−那覇市も余裕を考えると30分以上は見ておきたいほどの渋滞が激しい地域です。沖縄の道路1kmあたりの渋滞損失額は、首都圏、近畿圏、中部圏の各都府県に次いで第7位。しかもその渋滞損失の1/3は那覇市に集中しています(※1)。また、道路の平均速度も遅く那覇都市圏の混雑時平均旅行速度は14.9km/h、東京23区の16.4km/h、大阪市の16.6km/hをも下回る数字です(※2)。

混雑が激しいR58(北谷町)

北部と那覇・空港を結ぶ長距離路線バス

一般道経由が主流(恩納村)

 そんな沖縄に姿を現したゆいレール。これまで公共交通と言えば、「遅い」「時間が読めない」「本数がない」「判りにくい」となにかと悪評だったバスに比較すると、その存在感は際だちます。まさに「軌道系のメリット」を最大限に発揮しているのです。

 つまり、これまでは「バスが遅れるから」「渋滞で身動きが取れないから」と時間に余裕が必要だった移動に定時性のある交通機関が加わった。このインパクトが生活に与えるものは大変大きいものです。

これまでの主役だった路線バス。経年車が多くサービス水準は低い。

(左 小禄  右 那覇バスターミナル)

 

2 予想以上の好成績か、予想を下回った駄作とするか

 「ゆいレール」の整備効果は様々な評価があります。需要予測を下回るもののほぼ近い輸送人員を確保し、しかも収入は予想以上。ゆいレールに近い時期に開通した他の軌道系交通に比較すれば格段に良好な成績を収めています。

乗降が多い首里駅 牧志〜安里間の車内の様子(休日昼間)

 さらにいえば、過日に発表された調査結果(※3)では自動車からの転換が17%見られ、しかも空港周辺では自動車交通量の減少が明らかに見られる。そして利用状況を実見すればその混雑には驚かされ、しかも広域100万弱、那覇市ではわずか30万強という人口規模の都市圏では稀有な高いサービスレベルを有しながらも高い利用率である。そう考えるとどうして失敗といえるのかともいえます。

 失敗という意見の多くは「ゆいレールが出来ても車が減っていない」、「そもそも人口30万の小都市に軌道系は必要ない」などの主観的な見方、あるいは「需要予測を下回っている」が多くなっています。

 これらは間違いではないのですが、交通行動の概念を考えていない、または数字のトリックに振り回されている反応とも言えなくはありません。

 これらを考えてみましょう。

 

1)自動車への影響

 軌道系が出来ただけで車が減ったなどという例は世界中探してもおそらく無いでしょう。かのストラスブールにしてもポートランドにしても、パークアンドライドや公共交通拡充に合わせた市街地の交通規制・抑制策などのTDM、あるいは環状道路の整備などを総合的に実施したからこそ公共交通利用が増加し、中心部の自動車削減が可能であったと言われており、それでも数パーセントの変移があるかどうかという次元です。

撮影:和寒様

【事例】グルノーブルLRTのパークアンドライド 【事例】トラフィックセルによる流入規制(パース)

 一方、ゆいレールはどうでしょうか。バス網の再編(そもそもの計画の是非は別として)が上手くいかない上に乗継などもできておらず、ゆいレールの利用が便利な地域は限られます。よって、自動車利用との比較でゆいレール利用が優位になるケースは限られます。事実、端末利用は徒歩が70%(※3)と駅勢圏が小さくなっています。また、パークアンドライドは小禄や首里、おもろまちで行われていますが容量が小さく数十台規模。市街地内の交通規制は国際通りでの実証実験が行われた段階で、具体的な抑制策は講じられていません。これでは転換もそうそうはおきません。とはいえ、これはゆいレールの計画性の無さというよりは今がまず開通という第一ステップ、そして段階を経ていく過程と考えるのが自然でしょう。

 これだけの悪条件であっても、自動車からの転換が生じているという事実は大きなものであり、約4800トリップの自動車利用減は大きな効果といえます。

ゆいレール利用区間における開業前の利用交通手段

出典)沖縄県資料(※3)

 パークアンドライドに関しては、ゆいレール社により首里、おもろまちの両駅で行われているほか、小禄駅前のジャスコと提携し、パークアンドライドが実施されています。

小禄駅パークアンドモノレールライドのシステム

ゆいレール定期券とジャスコで利用できる商品券1万円分を購入することでジャスコの店舗駐車場を利用可能。

1万円の商品券は普通に店舗で利用できるので利用者には大きな損は無く、ゆいレールは無料で駐車場が確保可能で、店舗には確実に1万円の収入があるので3者にメリットがある。

名古屋や大阪などでも導入されているシステムであるが、開業時から導入しているのは珍しい。

ジャスコ那覇店に直結する小禄駅

 

2)バスとの連携

 バスとの関係で見れば、今のところ計画のバス再編はバス利用者減少を受けての対処的なケース以外はほとんど実施されてはおらず、乗り継ぎ割引も行われていません。しかし、2004年2月に実施された高速バスとゆいレールの接続社会実験(路線バスorパークアンドバスライド〜高速バス〜モノレールという乗り継ぎ実験)は好評であったとの結果も出ており、さらにはコミュニティバスの割引実験など新たな動きも増えています。なにも当初の再編案ということではなく、バスとの総合的な連携によって変わりゆく余地が十分にあると言えます。

高速バスとモノレールの乗り継ぎ社会実験の様子(左:沖縄南ICパークアンド高速バスライド駐車場  右:首里駅に停車中の高速バス)

 

3)人口規模との非マッチ

 そもそも「30万で軌道の必要は無い」という批判については、これもまた一面の見方です。人口や面積だけで比べるのはいささか乱暴ですが、人口密度でみると那覇市の人口密度は7841.75人/km2。この人口密度は都市鉄道が成立している浜松市(2242.07人/km2)、高松市(1720.53人/km2)、路面軌道系交通が成立している堺市(5756.08人/km2)、高知市(2253.26人/km2)などを上回ります。さらに名古屋市(6485.20人/km2)をも上回り、横浜市(7930.99人/km2)に匹敵するものです。

 那覇市は人口が狭いがために少ない人口であり、那覇市通勤依存率5%圏域では100万を超える規模を有します。この規模は政令市規模であり、決して侮ることが出来ないものです。

 

4)需要予測との乖離

 ゆいレールの需要予測結果との乖離は毎月のように地元紙で報道され、予測手法の甘さも含めて指摘されています。

 下図に見るとおり、確かに毎月の平均利用者数と予測者数の乖離は小さいながらも見られます。予測を実務で行う人間からすると「誤差の範囲」と考えるレベルですが、少なめに出ていることもあって批判が生じるのも無理はありません。

ゆいレールの月毎利用者数(出典 沖縄県資料※3ほか)

 ところが、ここには数字のトリックが隠されています。

 一般に需要予測においては定期券を利用する利用者は毎日利用するという前提で予測を行います。これは事業認可における需要予測は「収支」を検討するためのもので、言ってみれば「チケットを購入する人数」の予測であるからです。これはゆいレールに限ったことではなく、どの公共交通でも同様の考え方をします。

 しかし、現実は違います。たとえ定期券を持っていても、飲みに行く、遊びに行く、買い物をして帰るなど様々な生活行動のパターン変化に合わせ、バスやタクシーを利用したり車に変えたりと必ず毎日利用するわけではありません。そもそも休日があり実働は20日〜23日です。ですから必然的に予測の利用者数は実利用者数を上回ることになります。

 国土交通省へのゆいレールの運賃認可(参考文献参照)において出された予測では、利用者31350人/日に対して定期外(=普通乗車券・回数券等)利用者18520人/日、定期:通勤8,940人/日、通学3,890人/日とされています。つまり、定期券利用者の割合は40%程度と想定していたのです。

 ところが、開業当初の定期利用者は5%。以後伸び悩んでいたものの新年度となった2004年4月からは10%を超え、2004年6月時点で16%と伸びを見せています。とはいえ、予測で用いた40%(参考:北九州モノレール40.9%、千葉モノレール40.8%)には及びません。では通勤や通学利用はないのか?という疑問に辿り着きます。ところが、沖縄県の調査(※3)では利用者の38%が通勤通学であり、仮にこれらが定期券だとすると予測の前提に近づくことになります。

 つまり、ゆいレールの利用者の10%が定期利用者として需要予測と同条件で換算すると、2004年3月期で29514人のうち、2950人が定期利用者となり、この定期利用者は実際にはおおむね20日程度しか利用しませんが、計算上は30日利用ですので利用者数を月間換算すると1.5倍。つまり同条件換算では30989人の利用となり、その差はわずか360人。1%強の誤差でしかありません。ましてや通勤・通学利用者の定期シフトが行われていれば、同じ前提で換算した利用者数はほぼ需要予測を達成していると言えます。

 皮肉なことに、割引率が高い定期利用者が少なく、回数券や乗車券利用者が多いと言うことは収入はより多っており、事実、ゆいレールも予測を上回る収入を上げています。

 さらには、休日が多い5月や学校が春休みや受験関係で休みになる2・3・4月、観光客が急増する7・8月といった特異月の平均と年平均予測値を比較するのもまたおかしな話です。

 また、急激な条件変化もあります。ゆいレール開業直前までバスとの乗り継ぎ割引を実施する方向で調整が進みましたが、結果として頓挫し実施されませんでした。そのため、利用者がルート・手段を選択する際の選択行動に変化が生まれています。

 たとえば久茂地に出るのにゆいレール+バスが300円で30分、バスが280円で40分なら20円差で所要時間差10分、そして乗換の有無によります。こうなる場合、乗換抵抗を考えても感覚的に見てチョイスは微妙ではないでしょうか。ところが、ゆいレール+バスが割引が無く400円で30分、バスが280円で40分だとすると、料金抵抗が120円となり、乗り換え抵抗も相まってバスを選ぶ方が増加するでしょう。「120円差+乗換」と「10分短縮」では「費用対効果」で考えてゆいレールを使うことに意義を見いだせないことがあるためです。

 このような前提の変化を予測では反映させるのが当然ですが、ゆいレールの場合、開業直前の頓挫となり、事業計画への反映はできないまま開業を迎えました。こういった数字のトリック、予測テクニック上の問題、急激な環境変化の課題が残った予測の数字と実際の利用者数を比較する場合、どうしても誤差は出るものですし、そもそも収入が予測を上回るなど利用者数以外の数字では良い方向に向かっていることを考えれば、利用者数の数字をあげつらうだけでの批判に意義があるとは考えにくいものです。

 そもそもゆいレールの予測人員数を単純に便数で割り戻すと全便が100%の乗車率を求められるほどの厳しい数字。しかし、それに近い数字を実績としてあげているというのはすごいことです。

この混雑が休日の夕方に見られる状態で予測利用者数の数%増しという厳しい予測

(03.11.3 左 旭橋駅  右 牧志駅)

 さらに今後に明るい期待があるのも頷けます。2004年12月には我が国では初めての本格的空港外免税店「DFS Galleria Okinawa(DFS沖縄)」(沖縄県外の旅行者が対象)の開業により、これまで観光の閑散期であった1月に多くの観光客が沖縄に向いていることが報道でも明らかにされているところです。また、豊見城市のアウトレットモール「あしびな〜」、南風原町のイオンショッピングセンターへの無料アクセスバスなどの商業面での変化、沿線商店街のリニューアル、ホテルの建設ラッシュと土地利用も含め大きく変化しています。よって、これからに注目しなくてはなりませんから、今の段階で「失敗」と言い切るのは極めて危険です。

(参考:以久科鉄道志学館 http://www.geocities.jp/exyna_institute/ue/00.html )

 

3 ゆいレールはモノレールだから成功した??

 ゆいレールはわが国最後のモノレールなどといわれ、モノレールであったことの是非も問われています。しかし、モノレールであったからこそできた路線ともいえます。

 ゆいレールのルートはあらかじめルート沿いの道路を拡幅しながら整備されており、ゆいレール建設時にはほぼ全区間で導入空間が確保されていました。図中黄色で着色されている範囲が再開発(戦災復興再開発、土地区画整理事業など)の区域で、ゆいレールはほぼそれに沿って敷設されています。結果、モノレールであったからこそその空間を活かすことが可能であり、建設が容易に可能であったといえます。

ゆいレール路線図(クリックで拡大します)

 また、意外と忘れられがちなのがルート・線形です。ゆいレールのルートは無意味に曲がっているように見えますがこのルートは高需要地を結び幅広い利用が見込める好ルートです。しかし、このルートの場合小禄付近と首里付近で大きなアップダウンが続きます。これも、モノレールであるから可能であり、モノレールであったからのルートであるといえます。これをLRTでやろうとすると道路の拡幅という問題だけではなく地形的にも困難であることは想像可能です。

 ゆいレールのすばらしい点は、モノレールでありながら都市景観に与えるインパクトはさほどでもなく、また車両デザインからして威圧感を上手く減らしていること。これがこのゆいレールが溶け込めている点であり、モノレールのメリットを活かし、デメリットを極力減らすことに成功した例といえます。

市立病院前駅から古島駅方向を望む。

約6%の勾配が見られる。

奥武山公園付近の景観。

モノレールとしては非常にすっきりしている。

柔らかい印象の車両デザイン(那覇空港〜赤嶺間) 都市景観に上手く溶け込んでいる(旭橋〜県庁前間)

 

4 ゆいレールはバリアフリーの最先端でもある

 ゆいレールは当然最新のモノレールであるだけにバリアフリー思想は徹底しています。

 市立病院駅と那覇市立病院の直結の他、各駅にエレベーター・エスカレーターが設置され、歩道の両サイドからエレベーターで上がることができます。また、全駅に車いす乗降装置、車いす対応トイレ。主要駅にオスメイト対応トイレ、サイン類の「かな文字」表示(日本語が苦手な外国人や子供にはありがたい)、2カ国語放送といった、ユニバーサルデザイン思想も強く見られ、先進事例として高く評価できるものです。

病院と駅舎の直結(市立病院駅) 手すりへの点字誘導も標準装備

エスカレーターが完備(県庁前駅)

かな文字標記のサイン

全駅に設置されるエレベーター(県庁前駅)

 

5 「沖縄らしさ」の見事な演出とその個性

 ゆいレールは沖縄らしさの演出にも長けています。各駅のサインには沖縄伝統の染織デザインを用いており、写真に示す美栄橋駅と県庁前駅には「読谷山花織」、首里駅には「芭蕉布」が用いられています。

 さらには各駅に置かれたシーサーは沖縄の文化を活かしたものです。

 また、車内放送では新幹線などと同じように「メロディー」が流れますが、各駅毎に違う沖縄の「わらべうた」が使われているほか、発車ベルも「わらべうた」です。那覇空港から乗った途端に沖縄気分にさせてくれます。

 こういったこともやりすぎると嫌みになるものですが、上手に取り入れており、高い評価ができるものです。

美栄橋駅の駅名票 首里駅のサイン
県庁前駅のサイン 駅に鎮座するシーサー(那覇空港駅)

 

6 ゆいレールの繁栄とバスの共存共栄

 ゆいレールの最大の課題は「バスとの接続」です。

 都市間軌道系交通機関がない沖縄ではバスが都市間輸送を担いますが高速バスではなく主流は「一般路線バス」です。そのため定時性・信頼性に難がありどうしても利便性が低くなります。

 そんなバスを特に混雑する那覇市内で救う策として、首里で高速バス、おもろまちで中長距離バスとの結節が行われています。

 今のところ利用が芳しくはありませんが、バスとの乗継割引の実施や高速バスの本格化による変化も期待できます。

便数が少ない高速バス(那覇空港) 混雑の中を進むバス(普天間)
7 ゆいレールの課題を考える

 現段階では「成功」ともいえるゆいレールではありますが、課題も多く残されています。その点を少し考えてみましょう。

1)バスとの連携

 開業前より路線バスとの連携は計画されてきましたが、現実問題としては乗り継ぎ利用は多くはなく、当初考えられたフリンジとなる那覇環状道路・首里駅、おもろまち駅ともに利用は大変少なくなっています。僅かに国道330号の混雑回避としての古島乗換が見られるのみということで、バスとの連携は大きな課題となります。

バスとの乗継には配慮がされているものの利用が少ない(左 おもろまち駅  右 首里駅)

 現実問題として考えていくと、沖縄県中南部地域の流動において、バスからゆいレールへの乗り継ぎが「費用対効果」という側面で考えたとして優位になるのは限られます。北部石嶺地区から那覇空港・小禄、あるいは小禄地区から琉球大学・コザ方面といった「国際通り」を挟む南北移動、あるいはおもろまち地区のようにゆいレールの利便性が高いエリアへの流動であれば乗換のメリットがありますが、その他の流動では那覇市内のバス路線網の充実を考えると乗り換えてなおかつ料金割増となるルートを選ぶことは考えにくく、定時性という面でも乗換による時間抵抗により相殺される可能性も否定できず、乗換誘導には慎重になる必要があります。

 たとえば、那覇からコザまで高速バスで行く場合とゆいレール+高速バス(首里駅乗換)で行く場合、さらに一般道経由の路線バスで行く場合のその時間と料金の関係は次の通りになります。

那覇バスターミナル・旭橋駅〜コザ間の比較

ルート 所要時間 料金・運賃 本数・頻度 備考
高速バスを利用する場合 48分 820円 毎時1本 113番空港具志川線利用
路線バスを利用する場合 55〜70分 770円 毎時10本以上 77番他(大山経由)
ゆいレール乗り継ぎ 46分(※) 960円(ゆいレール260円 バス700円) 毎時1本(180番) 首里駅乗換180番屋慶名線利用

※)乗換時間含まず。

資料)沖縄バス・琉球バス・ゆいレール社資料

 ダイヤ通りの時間として考えると、高速バスとの差で2分の所要時間差で料金差が140円となり、決してメリットがあるとは言えなくなります。高速バスの場合、商業地である久茂地や牧志を経由しないためゆいレールがまだ優位性がありますが、久茂地・牧志を経由する路線バスとの差も渋滞が無い場合には10分程度で料金差190円。ここに乗換という心理的な抵抗が加わりますし、頻度もゆいレールのルートは低く、便利とはとても言えません。

バスが集中する久茂地地区(県庁前) 夜の国際通り

 これでは、問題となっている国際通りのバスによる渋滞の解消や那覇市内混雑によるバスの利便性低下に対する対応としては不足であり、また、定時定速の交通手段ではない路線バスが最も便利となるなど利便性は向上しません。かといって、ゆいレールへの無理な乗換誘導は利便性を損ねるものであり良いものではありません。

 対応策としては、県の方針同様、まずは乗り継ぎ利便性向上のための運賃割引、また高速バスの強化や基幹バス・BRTシステムなどバスの高度化による定時定速交通網の概成と大型化による輸送力増強、バスとゆいレールの有機的な結節の強化といったところがポイントになると考えられます。

【事例】パーク&鉄道&高速バスライドの成功例(淡路島) 【事例】高い定時性が確保される基幹バス(名古屋)

【事例】輸送力が大きいバスシステム(左 香港 右 千葉市)

 首里駅と那覇ICの距離は1kmありませんし、この区間では道路の拡幅も実施済みでバス専用レーンの設置も容易です。今後のおもろまち=那覇新都心の発展なども考えると、料金抵抗の低減や相互の接続ダイヤなどによる結節強化を考える必要はやはりありましょう。 

 

2)自動車対策としてのパークアンドライドの拡充

 那覇市内の交通混雑解消には自動車総量の抑制はもはや避けては通れません。那覇空港から東海岸を走る国道58号へのバイパス整備や那覇空港道の整備による渋滞解消も期待できますが、市内用務交通の削減にはTDM的政策を実施する必要があります。

 その受け皿としてゆいレールの可能性は極めて高いものです。那覇市内では渋滞対策の一環としてのLRTの構想も進められていますが、LRTは都心部の水平エレベーター的な存在のものであり、市内全域や広域からの自動車交通の受け皿になりうる「ゆいレール」とは性格が異なります。このLRTにしても、整備に際しては域内自動車交通の抑制が前提になりますが、LRTだけでは受け皿には成り得ず、那覇環状道路の強化と併せ「ゆいレール」と自動車の結節強化が必要になります。ヨーロッパや北米のLRT先進都市の多くは自動車交通を迂回させる環状道路網と受け皿となる駐車場・手段が確保されているからこそ成功していると言えます。

 パークアンドライドを導入する場合には、その受け皿となるゆいレールは高いサービス水準の確保が必要です。自動車の快適性を極力損なわないよう、混雑の緩和や本数の確保、利用しやすいダイヤなどサービスレベルも含めた検討が必要でしょう。

 また、郊外部から都心に向かうにつれて駐車場を値上げする仕組みやLRTとゆいレールの共通乗車制度によるシームレス化なども検討に値しましょう。 

 

3)利用率・輸送力向上

 開通後1年半の段階の利用者数で需要予測との差は現実的に考えれば極めて小さく、予測通りと言っても過言ではないレベルではあります。 また、収入面でも予想を上回ると言うことで経営として堅実と言えるものでしょう。

 しかし、一方でやはり利用率が問題になってもいます。昨今の公共事業への風当たりもあって、予測が実績を上回ることを求められがちなためです。

 確かに、利用率の向上はまだその余地があるといえます。パークアンドライドのさらなる拡充、端末交通の整備(フィーダーバスサービスなど)、沖縄観光人気の高まりに対応した観光客・ツアー客のさらなる取り込み、空港利用者への利便性の提供(事前チェックインや荷物扱いなど)、増発による利便性向上など様々な対策を打つ余地は充分にあります。

 また、ゆいレールの増発や増結など輸送力増強も必要となることが考えられます。30万都市としては高いレベルですが、小禄〜おもろまち間などは終日混雑が見られ、着席が困難となっておりサービスレベルダウンが見られます。この解消も大きな課題の一つです。

 

4)路線の延長

 開通後、早々と石嶺経由琉大方面へのゆいレールの延伸が騒がれています。石嶺地区は住宅団地として開発が進んでおり、需要増が期待できるでしょう。また、琉大近隣は琉大や沖縄国際大などの大学の他、市街化が進む地域であるとともに沖縄自動車道との結節も図れるなど新たな展開への対応も可能であり期待が持てます。

延伸が検討されている琉球大学付近(琉大入口BS付近)

 また、さらに考えていけば、既にバス路線が多数設定されている開南・与儀、人口増加が著しい豊見城、今後の米軍基地返還を睨んだ那覇軍港地区経由ルートや、宜野湾・普天間・浦添などの国道58号方向への延伸も考えられるところです。

 特に普天間基地返還跡地開発へのインパクトという意味でも、その延伸を期待したいところです。

 

8 ゆいレールの今後への期待

 意外と注目がされないままゆいレールが開業。都市交通の壮大な「フィールド実験」ともいえるゆいレールの取り組みはこれからが真の評価となります。

 そして、この成否が全国で今盛んに行われている「軌道系交通導入運動」に多大な影響を与えるものであることを考えなくてはなりません。

 観光客の積極的な取り組みに向けた「観光客向け乗車制度」の拡充(たとえばツアー客への乗車券割引購入など)、レンタカーの首里駅やおもろまち駅での取り扱い(DFS開業後おもろまち駅で実施が決定。観光客は空港で借りる手続きを経ずにおもろまち駅で借りることができるので西海岸方面へのリゾート客には便利)などの観光客誘導策、通勤・通学客向けとしてはバスとの乗り継ぎなどまだこれからの施策が目白押しです。

 沖縄ツアーのパンフレットでも首里城・国際通りとならぶ観光資源となったゆいレール。今後の発展に期待したいところです。

 

【出典】

※1)内閣府沖縄総合事務局

※2)平成11年道路交通センサス(国土交通省道路局)

※3)沖縄都市モノレール「ゆいレール」の利用状況(H16.2 沖縄総合事務局南部国道事務所、沖縄県記者発表資料)

 

【参考文献】

「沖縄都市モノレール よみがえる沖縄の軌道交通」(沖縄県)

「沖縄都市モノレール 事業の必要性と施策展開」(内閣府沖縄総合事務局・沖縄県・那覇市・沖縄都市モノレール(株))

「都市間比較でみた欧米ライトレールの動向 ストラスブール,ポートランドの事例を中心に」(交通工学 2003.1)

以久科鉄道志学館 URL http://www.geocities.jp/history_of_rail/

国土交通省 「沖縄都市モノレールの運賃認可について」(URL http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha03/08/080630_.html

沖縄タイムス・琉球新報記事


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2004.5 最終更新 2005.1.12