§6 未来への期待 〜ゆいレール延伸と今後の発展への課題
 

ゆいレール開業は那覇市、そして沖縄県全体に大きなインパクトを与えた。

これまで、「『8時に待ち合わせ』といって8時に来る人は居ない」などと沖縄の方々が半ば自虐的な揶揄をしてしまうような人々の生活リズムを変えるまでになっている。それだけ、「定時・定速」というサービスは大きいものであったといえる。

しかし、一方で、その効果は沿線に限定されたものであり、バスとの乗り継ぎにより隣接する地域での利用は見られるが、どうしても限定的にならざるを得ない。それが「ゆいレールは効果がない」の根拠とする意見まで出る要因となっている。

また、沖縄県内では戦後の返還当初より鉄道敷設がいわば悲願となっていた。今でも「那覇名護連絡鉄道」として構想があるのだが、それだけ都市間公共交通ニーズがあるということになる。

そこで、このゆいレールをその「公共交通ニーズ」への一つのシステムとして活用すると共に、さらに効果を広げる延伸計画が開通当初から検討されてきた。

ここではその延伸計画と将来の交通網について考えてみたい。


1 延伸構想の概要

ゆいレール首里駅から北東方向を望むと、妙なカーブが目に付く。

そう。ゆいレールは開業前の施工段階から延長を視野に入れた構造となっているのである。

首里駅から飛び出た軌道

ゆいレールの延伸ルートは首里駅から北東方向への延伸が主である。那覇環状線沿いに南下させる構想も民間レベルでは存在するが、行政機関の構想は浦添・琉球大学方面への延伸となっている。

いくつかの延伸計画があり、様々なルートが検討された結果、石嶺を通過して浦添から西原に至るルート(A−4ルート)と石嶺地区の東側の福祉施設集積地区を経て西原に至るルート(A−3ルート)が選定され、PI(パブリックインボルブメント)を含めた調査が実施されている。


2 延伸はプラスになるのか?

ゆいレール延伸については懐疑的な意見が無いわけでもない。

しかし、沿線の状況を見ると、効果は期待できると言えるだろう。

A−4ルートにあたる首里石嶺町 終点と目される西原入口交差点

沿線は既に市街化が進んでおり、一方で急峻な地形と狭い道路網の影響もあり公共交通ニーズが高いことは想定できる。さらに北部浦添方面では区画整理事業が実施中であるなど沿線におけるまちづくりの効果は十分に期待できる。

また、西原入口付近では浦西団地などの住宅集積地、公務員住宅なども見られ需要はある程度固いと言える。

さらに、西原入口のすぐ東側には沖縄自動車道が通っている。ここには高速バスが名護・うるま市方面に毎時3〜4本運行されており、渋滞が少ないこともあって速達性のあるバス路線として利用されている。この高速バスルート上には沖縄本島の主要都市である沖縄市・名護市があり、さらに琉球大学など高需要を生み出せる施設も存在する。これらとの結節性を高めることで乗り継ぎの増加を狙うことが可能であり、公共交通の利便性向上を図ることが出来る。

那覇と名護を結ぶ高速バス111系統(沖縄南IC) 琉大入り口バス停付近の様子

今後の普天間基地返還問題など浦添方面への開発圧力は十分に想定できるものである。


3 延伸への懸念と課題

しかし、この延伸には若干の懸念も存在する。

一つ目は浦添方面への延伸による利用層の偏りである。

ゆいレールは定常的な利用が強く成されている路線であるが、観光客の存在は無視出来ないレベルである。起点の那覇空港から終点の首里駅まで観光客の通し利用がごく当たり前に見られるだけの路線である。

しかし、浦添方面への延伸を行っても、西原入口には観光客が立ち寄る施設などはなく、途中にもそういったものはない。その結果、これまでの区間とは異なり、市民の積極的な利用を促していく必要があると言える。

もう一つの懸念はバスとの接続である。

沖縄県はすでに西原入口付近に高速バスとゆいレールの結節点を設置する構想を掲げている。これはこれで良いのだが、過去にゆいレールに接続する高速バスについては180番屋慶名線があったが、利用者の低迷により廃止となっている。バスは那覇ICに近い首里駅での接続を行う形態となっていたが、結果的には利用がされなかったことは無視できない。

これに関しては懸念ではあり、前途は明るいと断言できるものではない。

だが、このバスの問題点もまた考えなくてはならない名護・うるま市方面への主要な高速バスは全便が首里駅を通過しており、180番だけが首里駅に立ち寄る形であるため毎時1本というサービス水準に留まっていた。この問題は大きく、111番・112番などの高速バスを利用できればもう少し使い勝手はよいと言えるがこれでは使うには不便と言えたのだから、バスの改善も同時に行っていくことが重要である。

つまり、ゆいレール延伸に当たっては沿線の利用促進・バスの利便性向上を含めた対策を図っていくことが必要であると言えよう。


4 バス改善への問題点

ゆいレール延伸と合わせて、沖縄県では高速バスを活用したBRT(バス高速公共交通システム)の導入を含めた施策を検討していると報じられている。

これに関しては賛成である。鉄道導入を強く訴える意見もあるが、鉄道導入に反対はしないが必然的に時間がかかることは容易に想定でき、かつ東西どちらの海岸沿いにも市街地が広がり、その間に米軍施設があるという土地利用の制約もあって鉄道が万能と言えるほどの都市構造・地域構造ではない。

上空から見た本島中部地域(中央左の空港が米軍嘉手納基地。手前が沖縄市、奥が読谷村 奥に広がる森林は米軍嘉手納弾薬庫地区)

西海岸沿いの国道58号北谷町内(右手は米軍キャンプ桑江) 中央部の国道330号宜野湾市内(右手の住宅街裏手が米軍普天間基地)

よって、バスの高度化は公共交通の利便性向上のステップとしては極めて妥当であり、高速バスと一般路線バスを含めた高度化をどう進めていくかが今後の課題となる。特に沖縄は車社会が過度に進んだ地域であり、パークアンドライドなどの施策を上手に導入していくことが必要である。そのためにも綿密でありながらも利用者に魅力ある公共交通としてインパクトのある施策を打ち出していく必要がある。

ここでネックとなるのがバス会社である。現在4社あるバス会社がどこまで協力できるのか。過去の様々な問題においてゆいレールをライバルと捉えていた関係であったことは否定できない。果たしてどこまで改善できるのか。ゆいレール社とともにバス会社のスタンスも今後問題となるだろう。


最後に

ここまで「ゆいレール」が開業してから4年間の歩みとそれによるインパクトを見てきた。

モノレールだからなのか、あるいは多くの鉄道ファンには関心が無い沖縄県の出来事だからなのか、「ゆいレール」による様々な変化について鉄道趣味誌、特に「社会派」と自称する雑誌などは開業時すら小さい扱いでありほとんど取り上げていない。嘆かわしいを通り越し呆れる次元である。また、一部には今にも経営危機かのような記事を平然と載せ、常に空気輸送で誰も使ってないとでも言いたげな文章を残す「自称研究者」もめずらしくない。現地を見ても「誰も使ってないよね」などと平然と書くことも当たり前のようにある。

しかし、現実に現地で見てさらに各種データを付き合わせてみれば、そのインパクトにはただただ驚かされるばかりだ。TDMを整備理由としている都市交通というこれまでに無い交通機関であることもその特徴といえよう。

そして、都市交通が新たに出来ると都市の環境が人々の生活がどう変化するのか、これを現実のものとして私たちに見せてくれているのが「ゆいレール」なのである。

今後、さらに延長計画などもあって変化を遂げて行くであろう。そして私たちにさらなる驚きを見せてくれるに違いない。それだけの期待をかけられる交通機関であり、様々な課題等はあるのは間違いないが、将来には明るい未来が必ず見えると私は考える。

この「ゆいレールによる変化」そして「ゆいレールという交通網のインパクト」こそ、私たちが都市交通の議論において知っておくべき事なのかも知れない。


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