ゆいレールは言うまでもなくモノレールである。
日本跨座式と呼ばれるシステムを採用し、その中で小型基準(北九州・大阪などより一回り小さい規格)を採用している。
ゆいレールへの批判の中で「メンテナンスコスト」「運行コスト」「構造物が大きい」「ルートが悪い」といった批判が散見される。しかし、本当にモノレールを選択したのは誤りだったのか。本当に今のルートは失敗なのか。そしてライトレールなら、BRTなら、鉄道なら今より良かったと言い切れるのか。そこを考えてみたい。
さて、今一度ゆいレールのルートを見てみよう。
ゆいレールは那覇空港から一度南下し、赤嶺地区で300度回って小禄地区を抜け、国場川で左に直角に曲がって旭橋で再度北に90度回転。そこから繁華街の国際通りではなく、その西側の久茂地川を通って牧志へ出て、今度は鋭角でぐるっと330度回って那覇新都心に向かい、那覇環状線から東へ。そして首里に至るというルートであり、かなりクネクネした迂回ルートであると言えるものである。
那覇市街と那覇空港を単純に結ぶのであればこのようなルートは必要ないし、繁華街の国際通り上を通らずにわざわざ西側を迂回し急カーブで北に回り込むような線形への批判そのものは地図だけで判断すれば不自然とは言えない。いかにも「本来あるべき姿ではない無理なルートを引いた」と考える方もいるだろう。
しかし、ゆいレールのルートを那覇市の開発動向や都市計画と重ね合わせると、実に素直で忠実なルートであることが判る。
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ゆいレールのルートと開発エリア図 |
那覇市の都市計画は基本的に海側の58号沿いと内陸の330号沿いに南北の基本都市軸を配した都市構造といえる。
このうち、58号の海側については中心部こそ市街化されているが南側の那覇空港周辺は自衛隊駐屯地と米軍基地となっており、北側は那覇新市街の西端にあたり海側は開発がされていない。
また330号の中心部は斜めに走る繁華街の国際通りの影響を受け、北部で集積が高く南部は比較的「粗」である。国場川を渡った対岸の小禄地区と、那覇市北部エリアは再開発地域である。
つまり、ゆいレールのルートは基本的に330号沿いを基本とした都市軸をカバーしつつ、中心部において市街地が海側に張り出していることを考慮して海側に立ち寄る形態を取っていると考えられる。
その際に国際通りではなくあえて西側を通すことで、58号沿いのビジネス街をカバーし、合わせて国際通りも駅勢圏に入れた上で両端を抑えることでアクセスを担保している。
まさに都市計画の軸と都市の構造から絶妙にルート取りを行った、言い換えれば見事に都市の核=「ツボ」を抑えた路線であると言える。
その結果、人々の都市内移動のニーズにマッチさせることができ、都市開発の適切な誘導と安定した利用を確保している。これは「公共交通指向型都市開発」(TOD)のお手本のような都市開発であると言えよう。
ゆいレールはなぜモノレールなのか。
ゆいレールのルートを地図上で単純に見た場合、モノレールにする必然性を見いだすことはなかなかに難しい。道路上に設置するにしてもリニア駆動や平面にライトレールで敷設するなど手法は様々ある。
しかし、ここに「地形」の要素を加えると、その疑問は一気に氷解する。
ゆいレールの起点である那覇空港は標高数mの海辺にある。当然ながら標高が低い。ゆいレールはここから40パーミリ勾配で登りながら標高20〜40mの台地にある赤嶺駅に至り、赤嶺からさらに登って小禄へ向かうと、ここからは45パーミリの勾配で低地にある壺川へ向かう。都心部は標高10mほどの低地であるが牧志から安里を経て50パーミリの登り勾配で台地上にある「おもろまち」(標高30m)へ向かう。ここから台地上を進み、古島を出てからは60パーミリ前後の急勾配で一気に標高100mを超える首里駅まで登っていく。首里駅周辺は丘陵地であり、起伏に富んだ地形である。
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| 県庁前付近の久茂地川沿い区間 | 旭橋駅から小禄方向を望む。奥の丘陵地に路線は延びる |
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| 古島〜市立病院前駅間の急勾配 | 首里〜儀保間の丘陵地 |
この程度の急勾配は鉄軌道でももちろんできないことはない。しかし、高架軌道であり周辺土地利用や道路交差などの影響が少ないモノレールであるからこそ可能であった勾配ともいえ、もし鉄軌道、たとえばLRTで同様の縦断線形が確保できるとは言えない。
過去に路面電車があったのだから導入は可能という意見もあるかもしれないが、路面電車は今のゆいレールとは異なるルートであり首里城南側までの路線であり急勾配はあったとはいえ今のゆいレールとは比べモノにならない。同じく軽便も与那原線は川沿いの低地路線であり、糸満線や嘉手納線は丘陵地を避けたルートをたどっている。
さらに、導入空間という問題もある。ゆいレールが導入されている道路は4車線以上の他車線道路がほとんどである。よってLRTなどを仮に導入しても自動車の走行空間は残る。
しかし、前項でも述べたように数多くのバスが運行される那覇市において、LRTにより車線が潰れることはバスの定時性をさらに悪化させることになりかねず、またゆいレールのルートのうち、古島〜首里間、旭橋〜奥武山公園間は通過交通を処理する環状線に併設されている。
LRTの導入だけで車が減少するなどという甘いことは無いことを考えれば、それによる自動車交通利便性の低下は軌道導入によるメリットを消すことも十分に考えられる。自動車を減らすべきか否かという次元の話しではなく、最低限の交通サービスとしての提供もできない次元になるということも考えられなくはない。
また、国際通りに導入するにしても国際通りは幅員12〜16mの2車線道路である。決して広い道路ではない。そこにLRTを導入することは無理はないが迂回交通対策やバス路線網の見直しを十分に行う必要があり、さらに国際通りからは遠くなるビジネス街などのケアも必要になる。
狭い道路空間に橋脚を立てるにしても、「1本の桁」で済むモノレールは橋脚が細く優位である。いくらLRTが軽量でもモノレールよりは桁も構造物も大きくなる。平面であれば道路機能の低下により深刻な影響も与えかねない。
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| スレンダーな桁構造(左:奥武山公園 2002.5開業前 右:おもろまち〜古島間 2007.10) | |
つまり、ゆいレールというのは那覇市の地形・土地利用状況・道路環境などから判断して妥当な交通手段を選択した結果モノレールとなったと考えるのが自然といえよう。
仮に、以前から構想がある「那覇名護高速鉄道」が建設されたとしても、このルートで直通の互換性を確保する必然性は乏しく、明らかに棲み分けが可能であることから規格統一をあえて図る必要性は見あたらず、その点でもモノレールを選択したことは間違いとは言えない。
モノレールの反対意見には「コストが嵩む」ということがある。車両更新コストや軌道の整備コストなどである。
しかし、ではLRTや鉄軌道なら本当にコストは下がるのだろうか。
沖縄は台風の通り道である。台風襲来により絶えず塩害に悩まされてきた歴史もある。たとえば沖縄では中古車に「本土車」というランクがある。本土の中古車は塩害を受けていないので割高になるのである。
それほどまでに塩害の被害がある沖縄で、果たして単純に鉄軌道の方が整備コストが安いと言い切るのは難しい。
車両は大差はないと言えるが、レール・架線の交換時期や桁の更新などはコンクリート軌道のモノレールと比して決して頻度が低いわけではなく、むしろ高いと考えることもできる。レールなども本土から輸送しなくてはならない。本土のように鉄道を使って簡単に輸送できるわけではない。コンクリートであればその輸送コストは鋼材より遙かに安い。骨材は再生材が使用可能であり事実上沖縄本島で調達可能でありその分の輸送コストも格段に安くなる。
建設費で考えると、前述のようにLRT導入には道路の円滑な交通確保に多大なコストを要する可能性がある。強制的に車を排除するにはエリアが大きすぎて非現実的であり、拡幅などは避けられず、また橋梁などの建設コストも嵩む。橋脚分のコストもかかる。
つまり、「モノレールだからコストが高い」というのは一面的な見方に過ぎず、沖縄の特殊性を鑑みればLRTのコストが圧倒的に安いと言い切るのは難しい。
たとえばLRTを導入しても余裕のある道路幅員がある沖縄市やあるいは幹線鉄道として高規格な鉄道を整備するということであれば話は別だが、今のゆいレールのロケーションにおいてモノレールを選択したことは賢明な判断であったと言えよう。
4 バリアを感じさせない工夫
ゆいレールはモノレールにつきものの批判である「気軽に乗れない」という点も解決をしている。
近年開通した地下鉄や新交通システム同様、ゆいレールの全ての駅にはエレベーター・エスカレーターが完備されている。
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| エレベーター(県庁前駅) | エスカレーター(県庁前駅) |
「ホームまで上がるのが手間」といった批判はあるにせよ、そのハードルは低く、むしろ交通量が多く、かつ道路幅が広いが故に平面移動に手間取るLRTなどとの差はそれほど大きいとは言えない。
特筆されるべき事としてゆいレールの障害者利用率の高さがある。ゆいレールでは車いす利用者が全国の鉄道でもトップレベルとなっており、事実、私も開業後数度沖縄を訪問しているが、ゆいレールを利用するたびに必ず1度は見かけるほど頻度が高い。これはバリアフリー設備が完備によるところが大きいと考えられ、ゆいレールの特徴であると言える。
また、このバリアフリー設備のおかげで空港利用者にも非常に使いやすい乗り物となっている。観光客の多くはレンタカーを利用するが、その場合、那覇空港で手続きを行うか、ゆいレールに乗車し、おもろまち駅のDFSカウンターで手続きをする。比較的長い滞在が多い沖縄では荷物もスーツケースなどが多いことから、このバリアフリー設備は旅行者にも優しい設備であり、使いやすくなっていると言える。
もう一つの要素として快適性がある。日差しが本土よりも数倍強いと言われる沖縄では道路上でバスを待つことすら「ハードル」となるが、ゆいレールの場合はホームが屋根に覆われており、空調こそないものの日差しが遮られる分涼しく、沖縄の夏は本土に比べ「ジメっ」としてないだけにホーム上は予想以上に快適である。一部の駅における改札フロアなどは風通しの問題から蒸し風呂状態となるという問題はあるが、これは路面系公共交通よりも優位であると言えよう。
もちろん、路面系でも道路幅をゆったり確保できればホームに日よけなどの設置や照り返しの防止も可能であるが、那覇市の道路環境では難しいことを考えると、この点もモノレールを選択して正解だったポイントであると言える。
ゆいレールはバリアを感じさせない、ユニバーサルデザイン思想が浸透した最新鋭の公共交通であり、その内容はLRTにも負けない。
ここではゆいレールがモノレールであった是非を考えてみた。
ゆいレールはモノレールであったが故にこの成果を上げており、モノレールであったからこその成功であるとも言える。安易なゴムタイヤ系システム批判の一環としてのモノレール批判としてゆいレールは特にやり玉に上がりがちでLRTなら成功したと平然と述べる方も存在するが、それは極めて安易な見方であると断言しても良いだろう。
さて、ここまではゆいレールの現状と課題を中心に見てきた。
ここからはゆいレールの未来を考えてみたい。ゆいレールの延伸構想・計画とそれに関連する公共交通改良案から今後への期待と課題を考えてみよう。