§4 公共交通の問題と課題
 

前項までに公共交通相互の競争関係と共存の動き、そしてゆいレールの課題などを見てきた。

ここからもう少し視点を広げ、沖縄本島の公共交通として何が問題であるのか、そしてゆいレールはそれにどう対応できるのか、あるいはゆいレール以外に何が必要なのかを考えてみたい。

ゆいレールは市内交通機関に過ぎず、中北部への交通としてはバスに頼っているのが現状である。近年、那覇名護連絡鉄道やLRT構想、さらにゆいレールの延伸やBRT構想なども取りざたされているが、果たして問題点とは何があるのだろうか。

このような視点から、ゆいレール開業後に残る課題や問題点を生活・観光といった視点から考えてみたい。


1 ゆいレールとバスの共倒れのリスク
ゆいレールの経営環境は2項でも示したように決して安泰とは言えないレベルである。無論、乗客が伸びていることは事実であるし、成功とも言える波及効果を広くもたらしてはいるが、だからといって安心できるわけではない。

バスについては厳しい経営環境が続いている。バス会社4社のうち3社が破綻に近い状況となり、2社が別会社に移行したという事実を見るまでもなく経営環境の悪化は深刻であると言える。

バス利用者数は全国的にも激しい落ち込みが見られるとはいえ、沖縄でも急激な落ち込み方をしている。少子高齢化の影響が本土にくらべ小さい沖縄での急激な落ち込みは厳しいと言わざるを得ないであろう。

その中で、ゆいレールとバスがようやく共存関係に戻ってきたことは評価できる。

しかし、一方でいくら人口規模が130万人とはいえ、この規模で5つの事業者が減少しつつある都市交通のパイを奪い合うという状況は共倒れというリスクを負いかねない。

ゆいレールの場合、今の段階では棲み分けがされているとは言える。しかし、少ないパイを奪い合う関係でもあることは確かであり、開業時の那覇交通のように共存ではなく競争という考え方にシフトしたとすれば、それは今後の都市交通整備に大きなハンデとなるものだ。

つまり、今、ゆいレールやバス会社がやるべき事は何か。自社の利用を促進することはもちろんであるが、公共交通全体の底上げが重要となってくる。

 


2 自動車の受け皿としての公共交通

2007年よりガソリン価格が高騰しており、それは沖縄も例外ではない。

その流れの中で公共交通の利用増加が図られているのではないかという意見もあるが、全国的に見ても客観的な指標として明確に現れているものはすくない。確かに利用が増えている公共交通も存在するがその多くは自動車の受け皿としての体制を整えることができた交通手段であるといっても良いだろう。

さて、ではゆいレールや既存バス路線はどうであろうか。

ゆいレールは定時・定速という自動車交通にはない絶対的な優位性を持っている。そして開業が新しいが故にエスカレーターやエレベーターといった施設整備が進んでおり、利用はしやすい。事実、ゆいレールでは実に利用者の16%が自動車からの転換という驚異的な結果を出しているのだが、一方で「取りこぼし」をしているのもまた事実と言える。

ゆいレールの駅では現在3駅でパークアンドライド駐車場が整備されているが、現段階では満車状態であり、新たな希望者は順番待ちに近い状態である。

しかし、一方ですでに駅前に駐車場用地はなく、簡単に駐車台数を増やすことはできない。ましてや市街地に近い路線であることから渋滞緩和効果はあるものの、公共交通に転換する動機付けという意味では弱いと言える。

自動車利用者に有意なメリットを与えつつ公共交通に転換してもらう基礎的な条件が若干足りないというのが現実といえる。

さらにいえばゆいレールは那覇市内の拠点を的確に抑えてはいるが、那覇市外からの流動には現状で対応できていない。この対応も課題の一つである。

また、バスはどうだろうか。

近年、首都圏や京阪神などからの中古車の導入、米軍特定輸送から撤退したことで浮いた車両の路線転用といったことで、「古くさい」「骨董品」と揶揄されるような古いバスはなくなり、見た目の近代化は進んだ。

つい数年前まで数多く見られた730車(S53交通切り替え時導入車)

左:那覇バスターミナル 右:玉泉洞(おきなわワールド)

数少ないワンステップバス(沖縄バス 77系統) 米軍特定輸送転用のバス(琉球バス 23系統)

しかし、バリアフリーやユニバーサルデザインといった視点で求められるステップレス化などは程遠く、ワンステップバスは沖縄バスの数系統で運用されているに過ぎず、ノンステップバスは皆無に近い。一般路線のバスも都市内の近距離路線向けを長距離運用しており、都市新バスなどに見られる居住性の高いハイバックなどのシートの採用は一部の観光路線で見られる程度であり、サービス水準が高いとはとてもいえない。

つまり、受け皿となる水準に達しているかといえば疑問といえる。

パークアンドライドも一部で行われてはいるがシステマチックな導入ではなく、また、バス路線網も那覇からの中長距離の各停便路線を中心とする路線形態である。これではいくら鉄道やバスを使って欲しくても利用者に魅力を感じさせるだけの仕組みとなっているとは言えないだろう。

すなわち、公共交通が自動車利用者にとって積極的な転換を行えるだけの素地を作り上げること、すなわち受け皿への変化、もっと言えば”進化”こそ今の沖縄の公共交通に必要なことと言える。

 


3 市民生活から見た公共交通の課題

今の公共交通の課題を市民生活面から見ると、上述のように通勤・通学における「利用転換」への受け皿とはなってはおらず、自動車からの転換を促進させるだけのメリットは考えにくい。

理由はさまざまであるが、まずは「定時性」「路線利便性」である。

沖縄県のDID(人口集中地区)のピーク時における自動車旅行速度は低くなっており、幹線道路では自転車並みの速度となっている区間も珍しくはない。

自動車の混雑時旅行速度(平成17年道路交通センサス)

那覇都市圏の幹線道路は多車線化が進んでおり、那覇市内の一部で狭隘な道路が残るものの主要道路では4車線以上の道路が大半を占める。また、主要道路である国道58号や330号、329号などにはバス専用レーンが設定され、バスが集中する国際通りではバス専用道路化も行われてはいる。

しかし、自動車依存が進んでいることや慢性的な交通混雑もあって定時性の担保はかなり厳しい。

朝夕の一部時間帯でバス専用の運用がされる国際通り(2002.5 2007.7)

その意味でゆいレールの「定時・定速」は魅力的なものではあるが、那覇市内及び那覇都市圏内を広くカバーするほどの路線形態とはなっていない。

ゆいレール沿線でのゆいレール分担率の高さが示すように、潜在的な利用ニーズは高く、ニーズに応えられるだけの公共交通網が整備されていないという点は大きい。

また、商業という面で考えてみると、那覇市でも他地域同様郊外型店舗の増加による商業地外縁化が進んでいる。

那覇市は観光客が多いこともあり観光客をターゲットとした魅力的な店舗が中心部に形成されているが、国内他の観光地とは異なり「リゾート」志向が強いこともあってハワイやグアム同様、観光客向けといえども衣料品や装飾品等の店舗ニーズがあること、国際通りや牧志などがオフィス隣接の繁華街として強い魅力と集客力を有していることから他地域ほどではないと言えるものの、郊外に大規模な全国チェーンの郊外店が多数進出しており、空洞化の問題は生じていると考えて良いだろう。

しかし、アメリカ統治下において早い段階で、プラザハウスショッピングセンターに代表される集約型のSCが導入されていたこともあり、タクシーを含む公共交通との連携は国内他の地域に比べると進んでいることは確かである。

ゆいレールでも小禄駅と琉球ジャスコのように連携が図られているケースもあり、さらに発展してゆいレール市立病院駅と那覇市立病院のように商業以外での連携も見られる。

那覇市立病院と市立病院駅の直結通路(2003.11) 

今後、このような公共交通と商業・医療など生活関連施設との連携が必要となってくると言えよう。


4 観光からみた公共交通の課題

沖縄において「観光」は切っても切れない極めて重要な産業となっており、県民所得に占める観光の割合は実に15.1%(平成14年)と沖縄県の基幹産業と言っても過言ではない。

沖縄県への観光入り込み客は587万人(H19速報値)であり、観光収入は4227億円(H19速報値)とその額は他の都市・地域とは比較にならない。

その沖縄の観光には多様性があると言える。

世界的に見ても屈指といえる美しい海と珊瑚礁、やんばるや離島にみられる豊かな自然があり、シュノーケリングやダイビング、ホエールウォッチングなどビーチリゾート、ネイチャーリゾートとして世界に十分通用するだけの観光資源が存在し、そのアピール力は強い。

文化・芸術面でも世界文化遺産として「琉球王国のグスク及び関連遺産群」があり、そのほかにも琉球王国からつながる琉球文化や琉球民謡・琉球舞踊など日本の他地域にはない魅力的なものが揃っている。

首里城(那覇市)

美ら海水族館(本部町)

また、沖縄独自の酒である泡盛、日本の食文化と中国の食文化が融合した琉球王朝からの料理をベースにアメリカ統治下の影響も反映された琉球料理といった食文化、絶大な人気を誇る水族館である「沖縄美ら海水族館」、ランを始めとする様々な亜熱帯植物やフルーツ、多くのアーティストを輩出し幅広い世代に認知されているコザ、沖縄独自の「特定免税店制度」によるショッピングなどその潜在力は本土以上とも言えるものである。

さらに近年では秋・冬の野球・サッカーのキャンプも日本だけではなく韓国チームの実施も見られる他、2000年の九州沖縄サミット以後、国際的な会議やイベントの開催も可能となるなどスポーツ・コンベンションリゾートとしての成熟もされている。

これだけの観光資源がある沖縄への観光客は通年見られ、春〜秋にはマリンスポーツ、秋〜冬は観光や文化体験といったプログラムに人気が集まる。

観光客の多くは日本国内、すなわち「本土」からの観光客であるが、近年、台湾や韓国などからの観光客も増加している。

観光客の沖縄での行動パターンを見ると、以前は観光バスなどによる所謂「団体ツアー」が主流であったが、近年では個人で行動するパターンが増えており、沖縄への来訪観光客の72.9%(H19速報値)が複数訪問者、すなわち「リピーター」であり、ありきたりの観光名所をたどるツアーよりも個人で行きたい場所を訪問する形態が増加しているためと考えられる。

観光客訪問形態(H18観光統計実態調査 沖縄県観光商工部)

また、初訪問者でも定番ともいえる「首里城・南部戦跡・美ら海水族館」という観光コースではなく、近年注目されている「古宇利島」や「瀬底島」、「やんばる」など多様な観光コースの選択がされていることも原因であろう。滞在日数も平均3.67日(H19速報値)となっており滞在期間中の行動範囲も広いといえる。

これらの個人旅行者の増加は交通手段利用にも変化を見せている。

変化により増加した交通手段はレンタカーである。沖縄では大手各社に加え、地場中小も加えると主な会社だけで十数社がレンタカーサービスを提供している。貸し出している車は小型のリッターカー、つまり「ヴィッツ」や「マーチ」や「fit」などが多く、近年では韓国ヒュンダイの車が大量導入されている。

沖縄における観光客の移動手段(H18観光統計実態調査 沖縄県観光商工部)

観光地に停まるレンタカー(左:海の駅もとぶ 右:恩納村のコンビニ)

レンタカーが選択される理由は移動の容易性であることは疑いようの無い点といえよう。

例えば、恩納村など西海岸のリゾートホテルに宿泊する場合、一部高級リゾートで那覇空港までの送迎がある以外は空港からリムジンバスもしくは路線バスに乗ることになる。ところが、恩納村・読谷以外の本部半島や奥間などに宿泊する場合は夏休みこそバスがあるがそれ以外は運行がない。

よって那覇空港から公共交通でアクセスするには路線バスを乗り継ぐかタクシーに乗車する以外に手段がないケースがあるのだ。

空港とリゾートを結ぶリムジン(那覇バス)

恩納村の58号を走る路線バス(20番名護西線)

また、観光客の多くは那覇市内、もしくは西海岸エリアのリゾートホテルに宿泊するが、そこから例えば「美ら海水族館」へはシャトルバスなども無く、高速バスと長距離の路線バスを乗り継がなくてはならない。

その路線バスもハワイやグアムにあるような観光客向けのバスサービスではない一般の路線バスである。恩納村宿泊であれば当然ながら、食事に出るにもタクシーを利用するしかない。沖縄のタクシーは割安ではあるが移動距離が長い場合にはその料金抵抗が大きく、また客待ちが見られるホテルも少なく流しも多くはないことから移動に一定の制約が生じる。

よって、必然的にレンタカーが無いと「不便」ということになるのである。

ゆいレールの開業により那覇市内の移動に関しては公共交通の利便性が高まり、レンタカーからの転移という成果も現れている。

しかし、一方で那覇市外への観光流動に対する公共交通の利便性は極めて低いと言わざるを得ない。


ここまで生活・観光といった視点から公共交通の課題と問題点を見てきた。

ゆいレール開業により那覇市内は一定の成果が見られたと言えるが、その効果は広く波及するところまでは言っていない。公共交通の総合的な整備・網の確立が今後必要になってくると言えよう。

この課題としてもう一つ、そもそも「ゆいレール」がモノレールでなければ、バスではなく鉄道やライトレールなら良かったのではないか?そういう批判があるのも事実である。そこで、次節で本当に他の手段であればより良い成果が得られたと言えるのか、そこを考えてみたい。


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