§3 公共交通相互の競争関係と共存の動き
 

ゆいレールの開業により交通網に大きな変化があったことは、その1でも述べたとおりである。

ゆいレールの開業は、これまでバスに頼らざるを得ない状況であったこの地域に「定時・定速」という「無かった」機能を有する交通機関の整備というこれまでにないインパクトを与えた。

当然ながら、これまで公共交通を担ってきた路線バスにとっては「黒船来襲」のようなものであり、バスへの影響はかなり大きいものがあった。

公共交通のシェアだけではなく実トリップ数まで落ち込んでいる現状において、当初、連携というより競合関係といった関係であったゆいレールとバスの関係もその後の経営問題等もあって連携・共存にシフトしつつある。

このような公共交通相互の競争関係と共存の動きをみていきたい。

 


1 連携・共存の模索と競合へのシフト
ゆいレール開業前、路線バス会社4社の統合が模索される中、ゆいレールとバスでは乗り継ぎ割引の実施や路線バス網のゆいレール接続への再編といった様々な連携方策が検討されていた。

当初の構想では、並行路線は廃止、バスとゆいレールは乗り継ぎ割引を実施、乗り継ぎ系統の新設といったことが策定され、4社統合によるバス会社再編を含めたドラスティックな変革が予定されていた。

しかし、路線バス4社の統合は、経営再建中の会社があること、さらに未払い退職金問題や労組の問題もあって紛糾する。最大のバス会社で経営環境が良好であると言われている沖縄バスによる一部吸収、あるいは沖縄バス以外の3社合併なども模索され、今や存在すら忘れ去られつつあった戦時立法である「陸上交通事業統制令」(現在でも有効)の話まで出てくる中で、県が調整役として乗りだしたものの統合はできず、結果的に頓挫をしてしまう。さらに、那覇交通(銀バス)の経営破綻による並行路線の廃止撤回による路線再編の縮小といったバス会社の経営上の問題に端を発する再編計画の頓挫が生じた。

さらに、乗り継ぎ割引についても、割引分をゆいレール側が全額負担すべきとするバス会社と、折半すべきというゆいレール側で折り合いが付かず、さらに県がバス会社負担分の一部負担という案を提示したものの開業直前まで結論が出ず、直前になって乗継割引が実施されないことが決まるという波乱もあった。

ゆいレール接続系統に関しても、当初は「おもろまち駅」で半数以上の中北部への郊外線系統を折り返すことや「首里駅」で折り返す高速バスの設定により、国際通り等への進入を行わない方向で調整が進んだが、おもろまち駅交通広場にはバス操車場機能や滞留機能が無く、首里駅には交通広場すらないこともあって1路線が数十キロを超える延長が大半の郊外線系統の折り返しに不適切というバス会社の反発もあり申し訳程度の乗り入れに変更されることとなった。

券売機に残る「バス乗継券」ボタンと駅の案内表示(2003.11)

つまり、ゆいレール開業時には、両者は明らかな連携や共存ができず、那覇空港乗り入れ系統の一部廃止(120系統の一部・125系統など)、一部「おもろまち駅」折り返し系統の設定や小禄・赤嶺駅交通広場・首里駅への路線乗り入れ、首里駅経由の高速バス(180番)の設定、古島駅等へのバス停設置は行われたが画期的な利便性向上につながるものではなく、利用者からすれば不便さが増すような再編となってしまった。

開業半年後のおもろまち駅交通広場(2004.2)

首里駅接続の高速バス180系統(2004.2 首里駅)

そして、これ以降、ゆいレールとバスは共存関係というより競争関係にシフトしていく。


2 共存関係への流れ

ゆいレールの開業は那覇市民や観光客に大きなインパクトを与えた。時間通りに確実に移動する交通手段を持ち得なかった中で、定時・定速という本土なら当たり前の交通サービスがようやく提供されたのである。

その結果、ゆいレール沿線の発展やゆいレールの利用者増加といった現象が現れている。

その一方で、バスは厳しい状況が続いていく。ゆいレール利用者の40%(平日)はバスからの転移であり、当然ながらゆいレール並行路線では利用者が激減した。

そして、利用者側の行動変化も生じるようになる。計画よりも縮小されたバスとゆいレールの乗り継ぎであるが、当初予定されていた「おもろまち」「首里」ではなく「古島」や「赤嶺」での乗り継ぎが自然発生的に生じ始める。これは両駅とも渋滞区間の手前に位置し、バス路線が集約されたポイント(古島は浦添や普天間方面からの路線が集まる。赤嶺は糸満方面からの路線が集約)に存在する駅であり、ここでゆいレールに乗り換えることに「優位性」が生じるためである。特に古島駅は那覇環状道路沿いの都心入口に位置する駅であり、欧米のLRTなどに見られる「フリンジ部トランジットセンター」の要件を十分に満たした立地であることから、まさに「公共交通の結節点機能」を有するものとなるのは当然であるといえる。

また、ゆいレール開業により、これまでレンタカーを利用していた観光客のうち、那覇市内の散策においてゆいレールを利用するケースが目立つようになってきた。さらにここにツアー旅行から個人旅行へのシフトという全国的な旅行形態の変化も影響してくる。

那覇市及びその周辺の主要な観光地は多くがゆいレールと徒歩で訪問はできる。首里駅〜首里城跡など距離がある場所もあるが、本土の感覚で言えば徒歩圏であり識名園や海軍壕などを除けばゆいレールだけで十分といえる。

さらに石嶺地区などゆいレールから少し離れたエリアでもゆいレール駅へのアクセスニーズが高まり、那覇新市街の北西部でもアクセスニーズの高まりが見られるようになった。

これらの事象を受け、新たな駅アクセス路線として石嶺地区・首里地区で社会実験が行われ、その結果を受けて接続するバス路線の運行がスタートしたほか、那覇新市街でもコミュニティバスの運行が始まっている。

首里駅からの100円バス(那覇市石嶺 2007.10) 那覇新市街のコミュニティバス(2007.10)

もう一つの要素として那覇新市街の発展も考えられる。

那覇新市街の発展により、観光客だけではなく来訪者が増加することとなるが、中北部からの路線のうち、国道58号を通るバス路線では那覇新市街西部にこそアクセスできるが、DFSギャレリアやサンエーメインプレイス等が集まる東部へのアクセスはできない。そのため、新市街への利用者は「おもろまち駅」に入るゆいレール接続系統(2XX系統)に乗るか、那覇市内の牧志や久茂地で新市街に入るバス路線やゆいレールに乗り換える必要性が生じるのである。

その結果としてバスとの接続による乗り継ぎ需要の増大が生じるとともに、おもろまち発着路線の拡充が求められたことになる。

4年目のおもろまち駅交通広場(2007.10)

また、関係する行政機関の取り組みも大きい。県・市の都市計画や交通政策部局だけではなく、国・県・市の道路関係部局や各種団体等の協力もあって、様々な取り組みが実施されている。

開業直後には首里駅で高速バスを使ったパークアンドライド社会実験が行われたほか、乗り継ぎ情報サービスの提供やWEBサイトの開設などによりゆいレール利用促進とバスとの連携強化が図られている。

おもろまち駅のバス情報提供モニターと乗り継ぎ案内(2007.10)

これは、富山や高岡、北勢線など各地で見られる取り組みではあるが、開業時より各部局が積極的に関与しているという意味では先進的であると言える。


3 タクシーとの共存

沖縄では本土に比べ比較的安いタクシー料金ということもあり、タクシーが広く利用されている。

亜熱帯という気候の特性もあって、一般の市民にとってはバスと同じくらい利用しやすい交通機関がタクシーである。

ショッピングセンターや商店街のタクシー乗り場に停車するタクシー(左 首里りうぼう  右 沖縄市街)

これらのタクシーにもゆいレール開業の影響は及んでいる。

ゆいレールでは利用者のおよそ13%がタクシーからの転移とされている。つまりタクシー利用者はその分減ったことになる。しかし、一方でゆいレール開業は新たなタクシーニーズの掘り起こしも生んでいる。

たとえば首里駅では首里駅から首里城への観光客や石嶺方面への利用者を当て込んだタクシーの客待ちが見られる。これまで「駅」に該当する交通結節点がバスターミナルに限られていた沖縄における新たな「タクシー客を拾える」ポイントであり、首里駅に限らず、地形的に駅までのアクセスに厳しい面がある赤嶺や小禄でも見られる光景となっている。

首里駅前に並ぶタクシー(2003.11)

開業以前から、中北部の一部の高速バス停ではタクシーが待機している例(琉大入口など)があったが、駅という新たな集客ポイントを得られたことで、ゆいレールとの共存がある程度は図れていると言えよう。

しかし、一方で当然ながら足の長い客の減少なども懸念され、観光タクシーなどで活路を見いだすケースも見られるものの経営的には本土同様決して楽観できるものではないことは確かではある。


ゆいレールは沖縄の公共交通にこれまでにないインパクトを与えた。

それにより改善の兆しが見え、良い方向に動き出したと考えて良いだろう。しかし、手放しで喜んでばかりはいられない点は事実として残る。

あくまで市内交通機関に過ぎず、中北部への交通としてはバスに頼っているのが現状である。近年、那覇名護連絡鉄道やLRT構想、さらにゆいレールの延伸やBRT構想なども取りざたされているが、果たして問題点とは何があるのだろうか。

次節以降ではゆいレール開業後に残る課題や問題点を交通・生活・観光といった視点から考えてみたい。


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