§1 4年目のゆいレール
 
2003年8月の開業から順調に見えたゆいレールは開業半年で早速の試練はあったものの、事態が好転してからは順調に利用者を増やし、沿線への商業施設開業や全国的な沖縄ブームなど観光客の増大も図れたことで好調に進んでいく。

一方で厳しい経営環境は変わらず、「利用者が多いのに経営的に安泰とはいえない」という地方都市公共交通にとっては「いわばお約束のパターン」に陥っているのも事実である。

混雑し輸送力不足が懸念される状況であるにもかかわらず経営環境が厳しいというなんともいえぬ事態に陥っている4年目の状況をみてみよう。


1 順調な利用の増加
ゆいレール開通後の利用者推移を見ていくと、着実に増加していることがわかる。

平成18年10月には開業以来となる平均利用者数40000人を超え、さらに平成19年は通年通して35000人を超える利用者数を獲得した。開業初年度と比較して6000〜9000人増加となるなど順調な増加を続けているとして良いだろう。

 

ゆいレールの月別乗降客数の推移(1日平均利用者数)

市民の足として定着しているゆいレール(おもろまち駅)

2007.10

 


2 利用増加の源泉を探る 

月別利用者数で見ると、3月、8月、9月、10月という観光シーズンやイベント開催期間に利用が伸びる傾向があり、観光客の影響は無視できない。これには、おもろまち駅前に2004年12月末にオープンした沖縄型特定免税制度適用の市内免税店である「DFSギャレリア沖縄」の存在が大きい。DFS沖縄は関税(15〜20%)が免除されているため、プラダやフェラガモなどの一流ブランドが本土よりも15〜20%安いということもあって女性観光客の注目を集め、さらにDFSにレンタカーカウンターがあり、レンタカー利用者は那覇空港からDFSまで「ゆいレール」で移動することができるようにチケットを渡す制度があるなど、DFSによる誘客効果は無視できない。

   
おもろまち駅前にあるDFSギャレリア沖縄
2007.10 

さらに、ゆいレール1日券による首里城や県立博物館等の割引制度、ガイドブックなどでのPRといった観光客への浸透も大きいと考えられる。

ゆいレールの観光パンフレット
2007

 
一方、定常的利用(通勤・通学など)でも安定した利用を支える施策が生まれている。

ひとつはパークアンドライドである。現在、小禄駅をはじめ3駅で行われており、延べ222台分の駐車場を設けている。このほか民営駐車場等を利用した「自主的パークアンドライド」も行われていると考えられる。

小禄駅とジャスコ駐車場。ジャスコ駐車場をP&R駐車場として利用

2004.7

また、沿線の開発が進んでいる。

ゆいレールは那覇市内の再開発地域を縫うようにルートが進んでおり、この中でも「おもろまち駅」を中心とする「那覇新都心」地域では開通後、顕著な発展を見せているほか、小禄や赤嶺地区では開通前からの発展が成熟期に達するなど沿線の開発が顕著に進んでいる。

沿線ではマンションや宅地が目立ち、沿線への開発志向が見られるなど、一種の「TOD」的な開発が進んでいるといえる。

マンションが目立つ市街地(おもろまち駅)

2007.10

開発が進む市街地(小禄〜赤嶺間)

2002.5

ゆいレールは観光客だけではなく通勤・通学などの定常流動にも広く利用されていることはわかる。利用目的調査でもこれは裏付けられており、通勤・通学で50%を超えている。

「観光客向けの交通手段」という評価もあるにはあるが、多様な利用がされている交通機関という評価が適切であろう。

ゆいレールの利用目的(再掲)
出典)ゆいレール延長検討報告書(H19 沖縄県)・H16沖縄都市モノレール整備効果等調査(H17.3 沖縄県)

時間帯別利用者数で見ても、ピーク率は朝8時台に12%となっておりこれは通勤・通学の利用が大きいことの証明であるといえる。

 


3 厳しい公共交通の現実

ゆいレールはこのように「利用」という面では快調といえる状況である。実際、現在の状況は輸送力に対して利用者数が逼迫しており、終日にわたり市内区間の混雑は激しく、日中であっても乗車率が100%近いことも珍しくはない。

この利用状況は他の中量軌道系システムと比較しても圧倒的に優位であり、高く評価してもよいだろう。

しかし、那覇市を中心とする沖縄本島中南部都市圏(那覇市通勤10%依存圏域)における利用率で見ると、ゆいレールの分担率はわずか1%となる。

この数字はタクシーより低く、「都市圏の輸送において存在感を示していない」と考える方もいるレベルではある。

沖縄本島中南部都市圏における代表交通手段分担率

出典:沖縄本島中南部都市圏パーソントリップ調査(沖縄本島中南部都市圏総合都市交通協議会資料)

だが、この数字には注意しなくてはならないことがある。この調査は沖縄本島中南部都市圏全域のものであり、浦添市や宜野湾市、糸満市などの隣接自治体だけではなく、ゆいレールの利用がどう考えても困難である沖縄市やうるま市もその圏域に入る。つまり、利用したくてもできない圏域が含まれているということである。

ゆいレールへの批判において、「『使わない』という地元の声」があるが、これはまさにこのポイントによるものであることを考えなくてはならない。

さて、ではゆいレール沿線ではどうであろうか。

ゆいレール沿線における代表交通手段分担率(徒歩・二輪を除く)

出典:沖縄本島中南部都市圏パーソントリップ調査(沖縄本島中南部都市圏総合都市交通協議会資料)

ゆいレール(モノレール)沿線では徒歩・二輪を除く「交通手段利用トリップ」で比較すると、都市圏全域の1.4%に対して沿線は12.0%となる。これは決して低い数字ではないが、かといって手放しで評価できるほど高くはない。

この数字はゆいレールの厳しい現実を示していると解釈することもできる数字であるが、一方でTDM施策など特段の利用誘導施策を行わずともこの数字を達成できると考えることもできる数字である。この点がゆいレールの評価を難しくしているといえなくはない。


4 不安定な経営環境

上述のように、都市圏トータルの移動においては利用率が決して高いといえず、またゾーン間相互でも決して高くはない現実を反映してか、明らかに好調な利用形態とは裏腹に経営状況については決して安泰といえるものではない。

収入に関しては、たとえば18年度であれば当初計画の21.6億円に対し25億円と上回り、減価償却前損益では開業以来継続して黒字である。しかし、減価償却費が膨大であり当期純損益で16億6千万円の赤字となっており、累積損失額は75億円に上る。

  H18年度決算 運賃申請時収支計画
収   入 25.0億円 21.6億円
支   出 41.5億円 36.2億円
(内 減価償却費 23.3億円 18.8億円)
法人税等 0.04億円 0.04億円
当期純損益 ▲16.6億円 ▲14.7億円
(減価償却前損益 5.8億円 4.1億円)
累積損益 ▲75.0億円 ▲68.8億円
(前年度までの累積損益 ▲58.4億円 ▲54.1億円)

沖縄都市モノレール社の収支状況(H18年度)

資料:ゆいレール延伸計画報告書 沖縄県

無論、減価償却前損益が赤字ではないのだから救いようのない状況と言うことではなく、今すぐにでも経営危機というような評価は正確ではないが決して経営的に安定しているとはいえない。

ゆいレールを運営する沖縄都市モノレール社では経営計画の中で毎年1千人の利用増を目標としている。この数字は18年度までは無理なく達成しており、決して「できない」目標ではない。すでに1ヶ月平均で開業直後に匹敵する利用者数を確保しており、沖縄観光ブームや那覇市の急速な都市化進展、観光産業の隆盛もあることから不可能とはいえない。

しかし、更なる改善を必要としているのもまた事実であり、対策を取らなくてはならない。

決して楽観はできないが、悲観するほどのものともいえないものであろう。


4年間でゆいレールは那覇市民の足として、また観光客の足として、定着したといえよう。

しかし、利用率や経営面など課題が多いのも事実であり、その改善を図る必要がある。

また、ゆいレールにより那覇市で見えたさまざまな効果は、軌道系交通機関導入による効果として、これまでの各地での効果とは違うものを見せているのも事実である。

次項から「ゆいレール」沿線で見られるさまざまな変化と、さらに観光客という「新たなターゲット」についてみていきたい。


TOPへ 前へ 次へ HP TOP